
一昨昨日(さきおとつい)のこと。
いつもは横になったとたん、真っ逆さまに眠りに堕ちていくのに、
なぜか、なかなか眠れない。
ようやく睡魔の尻尾をつかまえて、束の間うとうとするものの、
はっと驚いたように目が覚める。
目ざめたとたん、覚醒している。
こんなに、いきなりはっきりとするなんて滅多にないことだから、
どうしたんだろう、と不思議に思う。
夜明けにはまだ間がある、眠らなければ、と、目を閉じる。
何度も寝返りを打ちながら、ようやくうつらうつらして、
また、はっとして覚醒する。
その繰り返し。
まるで、眠りそうになったとたん水をかけて起こすという拷問みたいだ。
そのうち、首筋から肩のあたりがパンパンに張ってきて、
もう寝ていることに嫌気がさし、明け方に起き出して朝の風に吹かれてみる。
前夜までは肩が凝っているという自覚もなかったから、
どうやらこれは血圧があがっているせいらしい、とようやく気づく。
と言っても、ふらつくこともないし、ひどく気分が悪いというわけでもないので、
ものすごく高い、というほどでもなさそうだ。
子どもの頃からずっと低血圧だったものだから、
少しあがっただけで、こんなふうになってしまう。
日中も、目元だけはしょぼしょぼと眠たいのに、
意識だけは妙にきっぱりと覚醒している。
いつになく、何もかもがクリアだ。
なんだか、これはあれに似ている。
そう、初めてメガネをかけたとき。
高校の身体検査で「仮性近視」と診断されて、
半信半疑で眼科に行き、生まれて初めてメガネを作ることになったのだった。
検査用の黒くてごついゴーグルのような器具の丸枠に、
かちゃりと「レンズ」がはまったその瞬間。
世界は、一変した。
モノの輪郭も、色合いも、向かい合うヒトの瞳も、
あまりにもクリアなものだから、なんだか少し怖くなった。
今まで居た世界が、どこかに消えてしまったみたいだった。
いつもは低く這いつくばっているような血圧が、
ひょいっと高くなったせいで(たぶん)、
頭の中が妙にクリアで、ぱきんと覚醒しているその感覚は、
初めてメガネをかけたときと、どこか似ていた。
人の言葉や自分の声の輪郭が尖っていて、少し怖い。
何を言っても考えても、なぜか「紋切り型」になってしまうような気がして、
とりとめのない想いの中を、ぼんやりと漂ってなどいられない。
この状態こそが、覚醒している、ということなのだろうか。
もし、そうであるのなら、あたしは今まで目ざめてはいなかった。
ずっと、半覚醒の中にいた。
だとしたら、あたしはなんと曖昧な世界の中で生きてきたのだろう。
そういえば。
高校の時に初めて作ったメガネを、あたしは結局使わなかった。
レンズ越しの、あまりにクリアな世界になかなか馴染めず、
いつもケースにしまったまま、机の隅に置いてあった。
気まぐれにかけてみることがあっても、
見える景色と同じように、自分もきっぱりきっちりせねばならぬようで、
ひどく疲れてしまうのだった。
0.5と0.7という、中途半端な仮性近視だったから、
授業中に黒板の字が見えなくて困るというほどではなかったし、
運転免許も取らなかったから、そのまま掛けずに今日まで来た。
見えないわけではなく、よく見えるわけでもない。
そんな視力でモノを見て、
目ざめていないわけでもなく、きっぱりと覚醒しているわけでもない。
そんな意識の中で、生きてきた。
だからこんな、とりとめのない思考回路になったのだろうか。
白黒つけることよりも、どっちもありだと思うような、曖昧な人間になったのか。
あがっていた(らしい)血圧は日毎に少しずつさがっていき、
首や肩の張りも薄れていった。
昨夜はもう痛みもなく、いつものように横になってすぐに眠りに堕ちた。
いくつかの、とりとめのない夢を見て、
目ざめたときには、からだ半分を夢の中に残したままだった。
いつもと同じように、夢とうつつの狭間を漂いながら、
馴染み深い世界に戻ってきたことを、ぼんやりと知り、
秘かに安堵したのだった。
---------------- 8×キリトリセン ----------------
いつものあたしの覚醒パターンといえば。
夢を見ながら寝ている→少しずつ目が覚める→夢とウツツをさまよう
→目を開けてぼうっとする→ようやく起き上がる→座ったままぼうっとする
→少しずつ目が覚める
と、こんな調子なものだから、いきなり、ぱきーんと覚醒してしまうと、
もう辛くて仕方がない。なんだか気が狂いそう、とさえ思えたり。
結局、我が家の貴公子ならぬ気功師ミメオ(いや別に本職じゃないんだけど、
なぜかプロ並みの腕前)によるマッサージのおかげで、
首や肩の痛みもしだいに取れていき、
それにつれて血圧も正常(低め安定)に戻ったようで、
ようやく、いつものぼんやりとしたあたしに戻ったのでした。
めでたし、めでたし。
って。
良いんだか悪いんだか?(笑)
あ。でも最近は遠視寄りになってきた(老眼ともいう)ので、
たまにメガネをかけたりします。
小さな字を読むときとか、繕いものをするときとか。
背に腹は代えられない、という言葉を実感するお年頃。
ふふふ。